第三次世界大戦はもう始まっている

 表題の「第三次世界大戦はもう始まっている」は、フランスの歴史人口学者、家族人類学者のエマニュエル・トッドの著書(文春文庫)の題名である。

 エマニュエル・トッドは、ソ連崩壊をその乳幼児の死亡率の高さから予言したことで知られた人物である。

 この本の要旨は、その背表紙にも書いてある通り、ウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにあり、事実上、米露の軍事衝突が始まり「世界大戦化」してしまった以上、、戦争は容易には終わらず、露経済よりも西側経済の脆さが露呈してくるだろう、と言うものである。

 最初この本を読んだ時、エマニュエル・トッドは露びいきで全く読むに値しない本だと感じた。ところが冷静に考え、何度か読み返してみると大きく納得できるようになった。

 ウクライナ戦争が始まるに至った原因を整理すると以下のようになる。

@米露両国にとって絶対に許すことのできない事:国境近傍に相手国の核ミサイル基地を建設される事
 これはソ連がキューバに核ミサイルを設置しようとしてアメリカがこれを許さず第三次世界大戦勃発の可能性もあった1962年のキューバ危機にも示されている。
 また、安倍元首相とプーチンの北方領土返還交渉時にプーチンが返還した場合に北方領土に米軍のミサイル基地を建設しないことを要求したが、日米同盟ではアメリカの望む日本の好きな場所に基地を建設できることになっているので 安倍元首相はそんな約束は出来なかったのである。要するに日米同盟がある限り、北方領土が帰ってくることはないのである。
 何故、米露両国は自国領土の近くにミサイル基地を作られるのを断固拒否するのか?それは反撃の機会を奪われるからである。要するに軍事大国にとって領土の周囲には一定の緩衝地帯が必要なのである。
 この事についてトッドは、元米空軍軍人で、現在、シカゴ大学教授の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの発言を次のように引用している。『ウクライナのNATO加盟、つまりNATOがロシア国境まで拡大することは、ロシアにとっては、生存に関わる『死活問題』であり、そのことをロシアは我々に対して繰り返し強調してきた』  

A西側はロシアに対しNATOを東方拡大しないことを約束:ドイツ統一が決まった1990年に米独はNATOの東方不拡大を約束
 アメリカ自身がNATOの東方拡大がロシアにとって何を意味するか理解していたのであろう、1990年2月9日にアメリカのベーカー国務長官が当時のゴルバチョフ書記長に「NATOを東方へ1インチたりとも拡大しないと保証する」と伝え、翌日にコール西ドイツ首相が「NATOはその活動範囲を広げるべきではないと考える」と伝えた。

B西側はNATO東方不拡大の約束を破る:2008年NATO首脳会議で「ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことを宣言
 NATOは一方的にロシアに対する約束を破り、NATO拡大を宣言した。これに対して、プーチンは緊急記者会見を開き、「強力な国際機構が国境を接するということはわが国の安全保障への直接的な脅威とみなされる」と主張した。
 2014年にはウクライナで「ユーロマイダン革命」と呼ばれるクーデタが発生し、民主主義的手続きによらずに親EU派によってヤヌコビッチ政権が倒された。このマイダン革命のときにアメリカのネオコンがウクライナにいて暗躍していたようである。
 プーチンはこの2008年と2014年の二度の裏切りに我慢に我慢を重ねたが、これはロシアにとってレッドラインを超えた行動であり、ロシアのクリミア併合へと繋がる。
 その後、アメリカとイギリスはウクライナに対して着々と軍備強化を支援した。これに対してロシアは2022年2月に遂にウクライナに侵攻することになる。

 さて、戦争になると分かっていて何故NATOは東方拡大を進めようとしたのか?

 元外務省条約局長等を歴任した東郷和彦氏はテレビ番組の中で次のように述べた。ウクライナ侵攻が始まって約1ヶ月後の3月にトルコでウクライナとロシアの和平協議が行われていた。この時、イギリスのジョンソン首相がウクライナに飛んでジェレンスキー大統領に『和平をするな。今、停戦するとロシアを弱体化させることが出来ない。』と伝えたというのである。また、トッドも次のように書いている。『アメリカの目的は、ウクライナを事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることでした。』

 ウクライナ戦争の本質は、米英がロシアを永久に弱体化させるためにNATOの東方拡大を使ってロシアに仕掛けた戦争と言える。

 エマニュエル・トッドはその発言内容からフランスの公共放送に出演禁止になっているそうである。日本でも東郷和彦氏のようにウクライナ戦争の本質を伝えようとする人物のテレビ出演は殆ど見当たらない。99%がアメリがびいきである。これはロシアの国営放送と同じではないか。

 イギリスの7月4日の総選挙に新党のリフォームUKを率いて出馬しているナイジェル・ラファージ氏はBBC放送で『ウクライナ戦争を徴発したのは西側』と発言し、問題になっているが、これが問題になるほど西側の国民はアメリカのネオコンの罠に嵌って洗脳されているという事だろう。正にロシア国民の多くがロシア国営放送で洗脳されているように西側の国民もマスコミ報道によってアメリカのネオコンの洗脳下にあるように思われる。

(2024年6月25日 記)