マックス逝く

 柴犬のマックスについては、これまでに犬と猫の話マックスとクーと中島みゆきマックス保健所に泊まる老いたマックスと糸トンボに書いてきた。ここ10日位は夜鳴きが激しく、近所迷惑も甚だしいので先月27日から玄関の中で寝かせるようにした。28日の午前中はおとなしくしていたが、15時頃から悲鳴を上げ始めたので人間の痛み止めを少し飲ませると1時間半位で静かになった。悲鳴が激しい時にはこれまでも人間の痛み止めを飲ませていたが、比較的良く効いていた。

 夜、“ことっ”と玄関で音がしたので見に行くとマックスが口から血を流して、玄関が血の海になっていた。直ぐに血を拭いたが、口から血があふれるように流れ出して止まらない。水道の蛇口から弱い水流で流れ出すように連続して出血する。新聞紙で血を受け止めるが、次々に新しい新聞紙を準備する。そんな中で長男が水をやるとガバガバと水を飲み始めた。そして暫くすると出血はようやく止まった。病院の診断では処方していた薬と人間用の痛み止めの飲み合わせが悪かったとのこと。マックスは痛みは感じていないはずなので処方している安定剤が効くのを待てとのこと。

 そうは言われても、処方された安定剤は全く効かないし、人間用の痛み止めは確実に効く。どうすればよいのか。その後も夜中にマックスが悲鳴を上げるので午前3時頃起こされて、そのまま寝られずに起きていたり、妻は妻で玄関前に布団を移動させてマックスをなだめ続けたりで、こちらの方が病気になりそうな状態になる。

 今月1日には病院からもらった栄養補助食品の溶液を注射筒で口に含ませると飲み始めた。この時点で体温は相当低下しており、犬が普通に生きていける最低体温に達していないということだった。2日には食欲も回復し、餌も食べはじめたが、再び昼から真夜中まで連続して吠え始めた。真夜中に起きたら、抱いていたら吠えるのを止めるので妻が玄関でマックスを抱いたりしていた。病院からは、痴呆の気があると診断されていたが、この頃には吠え方も狂気を帯びており、マックスに触ると時々唸り声を上げたりするようになっていた。本来の野性を取り戻したというか、狂ったというか。

 3日からは水も餌も全く受け付けなくなった。NHKの番組で人間も寿命が来ると意識があるし、普通に自分で座っているのに体が水分を受け付けなくなるのを見ていたので、マックスも寿命が来たと思った。ただ、分ってはいても何とか水と餌を食べさせたいのが心情ではある。注射筒で栄養補助食品の溶液や水をやってみたが駄目だった。この日も午後から吠え始める。もう声も枯れ始めているのにそれでも吠え続ける。

 4日は夜中から13時頃まで吠えていたらしい。夜には体温が確実に低下しているのが分かった。それでも声にならないながらもまだ吠えようとしている。もう長くないだろうと思いながら毛布を掛けて寝かせる。

 朝、起きて一番に玄関に行くと寝床から出て、冷たい玄関の床の上で死んでいた。寝床から出たのに気付かなかったのは不覚であった。

 これまで何度か安楽死させた方が良いかもしれない、と考えたことがある。アトピーで全身がかゆく、常に体を掻き続け、徘徊するようになり、最後は夜昼構わず悲鳴を挙げて、吠えて、死んだ。あまり良い飼い主ではなかった。マックスは頭が良かったので、もっと良い飼い主であれば、もっと良い犬になっていただろう。マックスは子供が好きだった。昔は学校帰りの子供たちが時々マックスに逢いに来ていた。そうするとマックスは壁に立ち上がって子供たちの相手をしていた。

 マックスの一生を見ていると人間の一生と変わらないと思った。犬は年老いたらコロッと死ぬものと思っていた。しかし、現実は違っていた。栄養が良くなると人間と全く同じ状態になることが分かった。痴呆になり、徘徊し、その内足が立たなくなり、便の世話をしてもらい、最後は狂ったように吠え続ける。マックスはアトピーの他に精嚢腫瘍も患っていた。

 南無阿弥陀仏。良い飼い主でなくて悪かった。

(2013年11月5日 記)

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