今も続く防衛大学校の下劣ないじめ

 日本テレビのNNNドキュメント「防衛大学校の闇 連鎖した暴力・・・なぜ」を見た。6年前に防衛大学校に入学した福岡出身のNさんが受けた暴力を取材した番組である。防衛大学校は自衛隊の幹部候補生を育成する学校である。卒業すれば自衛隊の幹部になるのであるから自衛隊のエリート養成組織である。ところがその防衛大学校で上級生による本当に下劣ないじめが日常的に行われているのである。

 いくつか挙げると
・全裸で腕立て伏せ
・ラー油の一気飲み強制
・風俗店での性行為の撮影の強制
・陰毛にアルコールをかけて燃やした後に剃り上げ
・殴る蹴る
・陰部を掃除機で吸引する
・私物を散乱させる飛ばし

 これらを彼らは撮影しているのである。また、Nさんは学生相談室に行って暴力の痣を見せて相談しているにもかかわらず大学校は湿布でも貼っておけと放置したのである。これらのいじめで体調を崩したNさんは2014年5月に休学する。この休学療養中にもラインで同期生が遺影のような写真を送りつけたりするのである。

 Nさんは2014年に学生8人を刑事告訴する。上級生3人に対し、罰金刑10〜20万円の判決が出るが、いじめを辞めさせる責任があった防衛大の責任を問うために学生8人と防衛大を相手に2016年に民事訴訟を起こす。裁判において被告の元学生(7人は既に卒業して幹部自衛官になっている)はいじめを行った理由について指導が目的であったと陳述している。陰毛に火をつけて燃やすのが指導と考えるような異常な人間達が現在も自衛隊の幹部として働いているのであるしかもこの異常な人間達が部下に命令するのである。自衛隊は本当に大丈夫かと思う。

 福岡地裁の被告8人に対する判決が今年2月5日に出た。7人に対して、指導の違法性を認め計95万円の賠償を命じる判決であった。

 それではこれらのいじめはNさんのみが特殊事情で受けたものなのか。番組はこの事件の後、防衛大が学生1874人に行ったアンケートを紹介する。弁護士の情報公開請求で入手したものである。その結果、
・体毛を燃やすいじめをやったことがある者: 33人
・体毛を燃やすいじめをされたことがある者:144人
・体毛を燃やすいじめを見たことがある者 :518人
・体毛を燃やすいじめを聞いたことがある者:670人
・殴る蹴るの暴力を見たことがある者    :4割

 防衛大では陰毛を燃やすなどの異常ないじめがNさんだけでなく、日常的に広く行われていることがわかる。なぜこのようなことが行われるのか。番組は防衛大で行われる学生間指導を紹介する。全学生に配布される規則集の学生間指導のガイドラインには、学生間指導は暴力、威圧、精神的圧迫、いじめなどに依るべきでないと明記されている。しかし、防衛大OBへのインタビューでは、防衛大では4年は神で1年生は虫けらなどの理不尽な状態が当たり前になっていることが示される。また、指導教官は約70名存在するが、彼らが積極的に実態を改めさせようとしていないことが示される。そもそも学生の多くが陰毛を焼くような異常ないじめが普通に行われているのを見聞きしているのにそれを認識していないとしたら指導教官達は馬鹿である。もし、認識していて放置していたのなら無責任・業務放棄である。どちらにしても指導教官達の責任は重い。それを裁判で指導教官たちは、「暴力・いじめはいけないと学生に指導していたのでこのようないじめが発生することは予測不可能であった」と責任逃れしている。

 ところが弁護団が入手した学生達の2007年〜2017年までの懲戒処分者一覧によると懲戒処分662名中私的制裁や暴力等で164名が処分されている。指導教官が言うところの予測不可能というのが全くの嘘であることが分かる。さらに2011年に作成された防衛大学校の改革に関する報告書の中で近年の『集団による不適切な学生間指導などの事案』が指摘されているのである。

 このような防衛大の体質について防衛大OBは、学校が威圧的指導の否定を学生に指導すると下級生の気が緩み規律違反も増してくるので再び威圧的指導が復活することの繰り返しだという。そもそも現代において下級生にしろ部下にしろ下位の者を論理的に説得して指導できない者は上位者として失格である。そのことを全く理解していない防衛大の体質は致命傷である。

 昔、航空自衛隊のパイロットを育成する現場を取材したテレビでも私物を散乱させる飛ばしを普通に訓練と称してやっているのを見たことがある。防衛大で習得した暴力いじめ体質が地方の航空自衛隊基地においてもそのままやられているのだなと思い至った。

 防衛大学生といっても彼らは給料をもらう特別職国家公務員である。もし企業の社員が会社で部下の陰毛を燃やすなどの指導を行ったら完全な犯罪である。この犯罪行為が防衛大で日常的に行われているというのは大変な異常事態なのである。

 たびたび自衛隊でのいじめや暴力が問題になる。防衛大がその温床なのだから根が深い。私は何度も組織の体質は簡単には変わらないと言ってきた。多分、変わらないだろう。戦後73年経っても旧日本軍の非論理的暴力体質が残存しているのである。論理なくして軍隊が戦えるわけがないのである。残念だが、現代における下劣な組織と断定せざるを得ない。

(2019年4月23日 記)

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