『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を読んで

 福田ますみ著「でっちあげ」新潮文庫を読んだ。副題が「福岡「殺人教師」事件の真相」である。本屋でこの表紙を見た時、何の事件のことか良く分からなかった。しかし、ピノキオとかアンパンマンといういじめを教師が生徒に行った事件だと言えば思い出される方もいるだろう。

 結論から言うとこの事件は、被害者を装った親子の完全なでっちあげ事件だったということである。虚言癖を持った典型的なモンスターペアレントをマスコミや弁護士が擁護して無実の教師を世間から抹殺しようとした事件。そこにはモンスターペアレントに対して毅然とした態度をとることの出来ない校長や教頭。思い込みだけで動き、真実を追求する気の全くない人権派と言われる500人を超える弁護士たち。同じく真実を追求する気の全くない無責任な新聞や雑誌等のマスコミ関係者。親の言い分と先入観だけで、いじめられたという生徒の正しい診断を行わずに裁判で出鱈目な証言をする久留米大学医学部の精神神経科学教室の講師・前田正治

 事件のきっかけは、平成15年5月12日に始まる。室見川の下流域の新興住宅地に囲まれた福岡市立A小学校に勤務していた教諭の川上譲(仮名)は、4月から4年3組の担任になり児童32名を受け持っていた。家庭訪問もあと1日を残すのみとなったその日、5名の児童の家庭訪問を終え、午後6時半頃帰宅した。服を着替えてくつろいだ6時40分頃、同僚の教諭からあわてた電話が入る。川上の担任の浅川さん(仮名)から学校に電話があり、先生がまだ家庭訪問に来ていない、祐二君(仮名)の兄が怪我をしたので病院に行かねばならず、先生と行き違いになるかもしれないと言っているという。川上は家庭訪問の日程表で浅川の家庭訪問は明日の13日になっていることを確認したうえで浅川和子(仮名)の携帯に電話を入れると「12日にお休みをもらっているので今日ですけど」と落ち着いて答える。川上は保護者との言い争いを避け、詫びを入れて都合を確認し、8時頃に家庭訪問を行う。

 祐二の学校生活について話していると和子が、自分は心理学を勉強したが、祐二はADD(注意欠陥性障害)児ではなかろうかと話す。・・・・・話の流れから和子の仕事について尋ねると和子は通訳や翻訳をしているという。さらに自分の祖父がアメリカ人で現在アメリカに住んでいるという。和子自身も小さな頃アメリカに住んでおり、日本に来た時、日本語がしゃべれなくて初めは困ったともいう。川上がアメリカのどこに住んでいたのか、と尋ねるとフロリダだという。ここで川上は「だからですね。アメリカの方と血が混ざっているから、祐二君はハーフ的な顔立ちをしているんですね。目や鼻がはっきりしているんですね」という。英語の話から和子は祐二をインターナショナルスクールに通わせたいが、日本の高校卒業の資格ができないので大検を受けさせたいなどと話す。(太字下線部分は著者が全てうそであることを明らかにしている)

 9時過ぎに電話が鳴り、和子が出たのをきっかけに川上は祐二の食事がまだだろうからと帰ろうとするが、和子は軽い食事を食べさせているので大丈夫だという。川上は和子の話にうんざりしていたので、内心もういい加減にしてくれ、まだしゃべる気なのか、と思いつつも、保護者がせっかくいい気持ちで話しているので和子の話をさらに聞く。

 和子は英語の話を饒舌に話す。アメリカの子供はABCDをエー、ビィ、シー、デーとは言わず、アー、ブゥ、クゥッ、ドゥと教わる話をした後、日本の英語教育を批判する。さらに長男のことに絡んでA小学校のPTA批判を始める。日本では親が幼い子供がいるからとか共働きをしているからとか自分のプライバシーを言って役員になれない理由にしている。自分はプライバシーは言いたくなかったので、『役員はやりたくありません。自分の子供は自分で守ります』と言ったら家に帰って苦情の電話が来たという。川上は軽い違和感を覚えながらも、和子が「アメリカのPTAは」などと言い出したため、それにつられて欧米と比較した日本人の民族気質にまで話が及ぶ。そこで川上はアメリカ文化の根底はキリスト教と思うが、キリスト教をしているのかと聞く。和子は祐二も時々ミサに行っており、アメリカ製の聖書を与えているという。川上は最後に雑談めいた話をした。「アメリカならば家内がハーバライフの販売をしています。・・・・・・・」時間は10時半で川上は、やれやれ、やっと帰れる、と思いながら浅川家を後にした。

 それから3週間たった6月2日朝。川上は教頭に校長室に呼ばれる。5月30日午後7時過ぎに浅川夫妻が家庭訪問のことで抗議にやってきたという。これからこのでっちあげ事件が始まるのである。詳しいことは本を読んで頂きたい。

 さて、10月8日。浅川祐二とその両親は祐二のPTSDを理由に川上と福岡市を相手取って約1300万円の損害賠償を求める民事訴訟を福岡地裁に起こした。原告代理人は大谷辰雄、八尋八郎、内田敬子、橋山吉統、平岩みゆき、甲木真哉、徳田宣子等である。訴えの内容を以下に抜粋・要約する。
●被告川上は、「10カウント」を帰りの会の時に毎日行った。
●被告川上は、「ピノキオ」などの「刑」を実行するとき、原告祐二が急いで片付けを行っていると、わざと早く10を数え、何が何でも時間内に片付けが終わらないようにした。
●原告祐二は、「アンパンマン」により口の中が切れたり、口内炎ができたり、歯が折れるなどの障害を負った。
●原告祐二は、「ミッキーマウス」により、耳が切れ、化膿するという障害を負った。
●原告祐二は、「ピノキオ」により鼻血を出す障害を負った。
●原告祐二は、「グリグリ」によって、数時間頭痛が治まらない、という状態があった。
●被告川上は、平成15年5月13日以降、再三にわたり、原告祐二に対し、「お前のような血の穢れた人間は生きている価値がない、早く死ね。自分で死ね。」と言って、自殺を強要した。
●被告川上は、原告祐二を上記いじめにより、重篤なPTSDにし、原告祐二にはPTSDの侵入、回避・麻痺、覚醒亢進等の症状が認められる

 本文にも出てくるが、もし本当に教師が連日、生徒の歯を折り、耳を切り、鼻血を出すなどのいじめを行っていたら、これは完全な障害事件であり、刑事事件にするのが妥当なのに彼らはそうしなかった。この時点で既に原告たちは胡散臭いのである。

 裁判の中で原告のアメリカに関する家族歴は出鱈目であることが明らかにされた。また、原告祐二が重篤なPTSDにあるという久留米大学医学部の前田の診断も東邦大学医学部佐倉病院精神医学研究室 黒木宣夫助教授が作成した意見書では「事実関係については「確認しない」まま、母親の陳述を鵜呑みにしてPTSD診断が行われた可能性が高く、原告が主張している体罰そのものに関しても客観的立場から公平に判断されていない」、「外傷体験とされた体罰の事実すらも疑義がある可能性が高く、裁判所が公平な判断をされることを期待する」と否定されている。

 この事件は、典型的なモンスターペアレントである浅川親子(仮名)がでっちあげたものであるが、それを拡大させたのはマスコミである。嘘八百を述べるモンスターを支援するマスコミ。そして500名以上の弁護団。弁護士のレベルはこんなものかとあきれてしまう。まともな診療もしない久留米大学医学部の前田

 日本のマスコミについては、マーティン・ファクラー著『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』双葉新書やカレル・ヴァン・ウォルフレン著「いまだ人間を幸福にしない日本というシステム」角川ソフィア文庫 が厳しく批判している。

 最後に、2008年に書いた随筆人間として最低な教師達のその後である。担任のいじめを理由に中間市と教諭に約1億5565万円の損害賠償を求めた裁判は、新聞で直接確認はしていないが、2012年3月に福岡地裁小倉支部が「いじめがあった証拠はない」などとして請求棄却したようである。そうなら担任に謝らねばならない。

(2013年4月20日 記)

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