フランス 反テロ200万人行進に思う

 1月7日、風刺画が売り物のフランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」の事務所が自動小銃を持った2人組に襲撃され記者ら12人が殺害され、その後の一連の事件も含め17名が犠牲になった連続テロに対し、11日にテロに屈しない決意を示す大規模な行進がフランスの各地であった。

 フランスのオランド大統領は「団結こそ力だ。国民よ立ち上がれ」と訴え、英キャメロン首相はツイッターに「事件は、我々の精神や価値を壊すことはできない。」と投稿したという。京都でもフランス政府の公式文化交流拠点「アンスティチュ・フランセ関西」で追悼集会が開かれ、在日フランス人ら約60人が集まった。その集会では連続テロに抗議する合言葉「私はシャルリー」と書かれた手製バッジが配布されたという。

 襲撃を受けた「シャルリー・エブド」は14日の特別号で、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載し、暴力に屈しない姿勢を示すという。そして特別号の表紙には、「すべては許される」という見出しがつけられているという。

 私は、この反テロ200万人集会と「シャルリー・エブド」の行いに白人の傲慢さを感じるのである。自分達の価値観を絶対に変えないという傲慢さである。

 世界各地の風習・習慣・宗教には様々な価値観がある。それぞれの価値観を重んじるなら、それに対して考慮を払うべきである。自分達の価値観が絶対であるなどということは許されないのである。これが寛容ということである。

 14日付け朝日新聞2面考論欄の長沢栄治・東大東洋文化研究所教授(中東地域研究)の話が、私の言いたいことを的確に言い表しているので以下に掲載する。
 「偶像崇拝を禁じるイスラム教では、預言者ムハンマドの姿を描かないこと自体が信仰の表れだ。絵に描くことは一般的なイスラム教徒には受け入れ難く、その絵で侮辱するなどというのはあり得ない。
 一連の事件について、中東のイスラム諸国もテロを批判しているが、イスラム諸国の首脳や宗教指導者は、内心は欧米社会が過剰に表現の自由を振りかざすことにわだかまりを持っているはずだ。
 異なる価値観や宗教的背景を持つ人間同士がわかり合うためには、人間の尊厳とは何かという点から議論を始めるべきだ。絶対的正義が自分の側にあると一方的に押しつけるべきではない。尊厳を認め合うための文明間の対話を、恒常的に続ける必要がある。」

 白人が文明間の対話に応じるなどということは期待できないであろう。その結果がどうなるか。多分、テロは白人が支配する世界中で日常的に発生するようになるだろう。

(追記)
 14日朝日新聞夕刊に『風刺画掲載に警告 エジプト宗務裁定庁』の記事。フランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」が14日に発行する特別号でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を再び掲載することについて、エジプトの宗務裁定庁は13日、「世界の15億人のイスラム教徒の反感を招く、正当化できない行為だ」とする声明を発表した、という。以下記事を抜粋する。
 「宗務裁定庁はイスラム教の宗教見解を出す国家機関。声明は「その(同紙の)行いは、文明間の平和共存と対話に寄与しない。イスラム教徒とその他の人々との間で、憎悪と分断の感情を作り出す」と警告し、仏政府や政党、あらゆる組織に対して同紙の差別的行動を拒否するように求めた。
 特別号は300万部が発行される。同紙は「デジタル版でアラビア語版も出す」としている。宗務裁定庁の宗教見解は、イスラム世界で広く尊重されており、今後、同紙に対する反発が広がる可能性がある。」

 フランス首相は、13日に国民議会で「フランスはテロとの戦争状態に入った」と演説した。これはテロとの戦争ではない。傲慢なキリスト教白人社会とイスラムとの戦争である。そして仕掛けたのはキリスト教側である。

(2014年1月14日 記)

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