旧弊を自ら打破できない日本

 教育テレビETV特集『長すぎた入院』を見た。
 39年間、統合失調症で入院させられていた66歳の時男氏を例に日本の精神科で昔から行われてきた時代遅れの隔離政策が現在も行われていることを暴いた作品である。
 時男さんは2011年の福島第二原発事故の5km避難圏内の病院に入院していた。避難指示があり避難先の病院で診察を受けたところ入院の必要なしということでやっと退院できたのである。退院後の時男さんを診察した精神科医師は時男さんについて、人格の崩壊もみられず、大変しっかりしたこの人が何故40年間も入院しないといけなかったのか非常に衝撃を受けている日本という国の犠牲者であると述べている。

 福島第二原発の周辺には5つの精神病院があり、約1000人の入院患者がいた。彼らは県外の病院等に転院したが、福島に戻りたいと言う患者を受け入れている福島県立矢吹病院の話によると5年で52人の患者を診たが、半数が25年以上の長期入院で、本当に入院が必要な患者は40人中2名程度しかいないという。

 ここで番組は、日本は精神科病院大国で世界の病床の約2割が日本に集中しており、
平均在院日数が先進国28日日に対し、日本が270日と異常に長く5年以上入院している患者は約10万人という実態に対し、国連やWHOがこれは人権侵害に当たると日本に対して何度も勧告しているにもかかわらず放置されてきたことを明かす。

 何故、入院を必要としない患者を長期入院させる隔離政策が始まったのか。
 国は高度経済成長に向かう1951年、精神障害者による生産阻害が1000億円を下らないとして隔離収容政策を打ち出した。これに追い討ちを掛けたのが、精神疾患のある青年によって引き起こされた1964年のライシャワー駐日大使刺傷事件で、メディアは精神障害者を野放しにして良いのかと煽り立てた。精神障害者は危険と言う風潮を作り上げた。そして精神患者を入院させれば病院が儲かる仕組みも作られた

 一方、世界では人権意識の高まりから長期入院を止めさせる真逆の動きが始まっていた。そして、日本は世界一の精神病院大国となった。要するに精神病院が病院ではなく、収容所と化して、国がそれを誘導したのである。そして問題なのは、精神疾患とほとんど関係の無い人間や弱い知的障害者なども精神病患者として長期入院させられていたということである。

 国連からの非難に対し、1987年に国は隔離収容政策を転換し、患者の退院促進を掲げたものの、患者受け入れのグループホーム建設などが地域の反対で進まず、患者の長期入院が続く原因となった。
 番組は、『日本の精神科病院に1年以上入院している人は18万人、5年以上はおよそ10万人いる』との字幕で終わる。

 この問題から私は差別に関する幾つかの根本的な事項を思い浮かべる。
 一つは、世の中には政府を始めとする権力者側の思想を無批判に信じる多くの知識人や国民が存在すると言うこと。国が精神障害者の隔離政策を打ち出せば、無批判にそれを支持し、従う国民、医者、家族、グループホーム建設などに反対する地域住民。
 これは、この精神障害者だけの問題ではない。ハンセン病もしかり、人質司法の問題もしかりである。
 医者は頭が良いから、世の中の理不尽なことは正すと思ったら大間違いである。彼らは頭が良いからまず自分達の保身を図る。入院が必要ないと分かっていても何もしない。
 ハンセン病も然りである。入院不要、隔離政策自体が誤りと分かっていても全く正そうとしない。むしろ率先して差別者として先導したのは医者である。
 人質司法の問題も然りである。検察が思いつきで犯人と決め付けた被疑者は被疑者が否認し続ける限り釈放しない。被疑者が無実だと言う証拠が見付かったら自分達の正当性を保つために証拠を隠してまで無実の被疑者を犯罪者に仕立て上げる。彼らには人間の心が無い。あるのは自分達の保身と出世のみ。最近では司法研修所検察教官の山吉彩子検事が取調べを担当した冤罪事件がある。無実の人間を6年間も拘束することを彼ら、彼女らは何とも思っていない。そういうことをした有資格者、権力者は反省することなく放置されたままである。意図的と思われる結論を下した責任を取らせるべきである。責任を取らせないから彼らは永久に無実の人間を平気で犯罪者に仕立てあげる

 二つは、メディアの責任である。戦前は自分達の新聞の売上げを伸ばすために率先して国民を戦争に煽った。国の検閲が厳しく、真実が報道できなかったなどと被害者面をするが、本当は自ら進んで軍部を礼賛し、国民を煽ったのである。日本のマスコミなどあまり信用しない方が良い。彼らが第一に考えているのはスポンサーであって、国民の利益ではない。

 三つは、誰も反省しない、変らないということである。
 1987年に国は隔離収容政策を転換したと言うが、2011年の福島第二原発事故でこの精神障害者の長期入院が明らかになった。一体何年経過しているのか。転換してから現在まで何年経っているのか。
 家の近くに精神病院がある。入院棟がある。院長は屋敷に住んでいる。敷地は改造拡大しているから相当儲かっているようである。何も変っていない。
 日産のゴーンの逮捕で人質司法の問題がクローズアップされ始めたが、マスコミは信念も何も無いから直ぐに沈黙した。国のやることに間違いはありません。検察が起訴したことに間違いはありません。お上がやることに間違いはありません。情けない国民である。これでまともな教育を受けた国民と言えるのか。

 日本人は他人の痛みを分かろうとする力が弱いような気がする。自分に関係が無ければ他人事で済ます。それが回りまわって自分に不幸が回ってくることに気がついていない。情けないことである。

(2019年2月3日 記)

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