領解文(りょうげもん)

 6月23日付け朝日新聞に『聖典現代版めぐり「お家騒動」』―浄土真宗本願寺派の「領解文」―「時代に合った言葉で」門主方針に僧侶ら反発 の記事。

 領解文は島根に住んでいた幼児の時、食事の前に仏壇の前に爺さんを先頭に正座して唱えていたので昔から「もろもろの・・・」の文は小さい時から何となく知っていた。

 領解文は浄土真宗中興の祖、8代蓮如上人の作で、浄土真宗本願寺派の日常勤行聖典の最後に載っている。お寺で行われる法要の最後に参列者一同がこの領解文を唱える。浄土真宗の日常のお勤めの基本は正信念仏偈(正信偈)と和讃6首、蓮如上人の御文章を拝読し、領解文を唱和することであるが、この一連の流れで約30分掛かるので、私は朝は御文章拝読のみで夕方は正信偈と御文章拝読のみとしている。父母の月命日には正信偈、和讃を唱え、御文章を拝読している。いずれにしても浄土真宗門徒にとって正信偈と領解文は重要な文書であるが、領解文は信仰上の要点を簡潔にまとめた文書で門徒にとってなじみの深いものである。

 今回問題になったのは、幅広い人たちに分かりやすく教えを伝えるために大谷光淳門主が1月に示した「新しい『領解文』(浄土真宗のみ教え)」である。大谷門主は宗祖・親鸞聖人の生誕850年を祝う慶讃法要でも、時代に合った言葉で伝えていくことが、伝道教団である私たちの使命と呼び掛けたが、唱和を拒否して退席する僧侶や一部の僧侶らが「教義と異なる」とSNSなどで相次いで反対意見を表明したという。さらに本願寺派の最高位の学者「勧学」とそれに次ぐ司教計33人のうち、過半数の計19人が文章の取り下げを求める「有志の会」に名を連ねたという。領解文と新しい領解文を以下に示す。

【領解文】

 もろもろの雑行雑種自力のこころをふりすてて、一心に阿弥陀如来、
われらが今度の一大事の後生、御たすけ候へとたのみまうして候ふ。
たのむ一念のとき、往生一定御たすけ治定と存じ、この上の称名は、
御恩報謝と存じよろこびまうし候ふ。この御ことわり聴聞申しわけ候ふ
こと、御開山聖人御出世の御恩、次第相承の善知識のあさからざる御
勧化の御恩と、ありがたく存じ候ふ。このうえは定めおかせらるる御掟、
一期をかぎりまもりまうすべく候ふ。

【領解文の構成】
第1段:自力のこころを離れて阿弥陀如来の本願他力にすべてを託する、いわゆる捨自帰他の安心が示されている。
第2段:信の一念に往生が定まるから、それ以後の念仏は報恩にほかならないという、いわゆる称名報恩の義が示されている。
第3段:上記の教えを教示し伝持された親鸞聖人や善知識の恩徳を謝すべきことが述べられている。
第4段:真宗念仏者の生活の心がまえが示され、『御文章』などに定められた「おきて」にしたがって生活すべきことが述べられている。

【新しい領解文】

南無阿弥陀仏

「われにまかせよ そのままう」の 弥陀のよび

煩悩のさとりは 本来一つゆえ

「そのままう」が 弥陀のよび

ありがとう といただいて

この愚身をまかす このままで

られる 自然浄土

仏恩報謝の お念仏

これもひとえに

宗祖親鸞聖人

法灯伝承された 歴代宗主

いおきに よるものです

 

えをりどころにきる となり

しずつ われのを れます

かされていることに 感謝して

むさぼり いかりに されず

やかなと しい言葉

びも しみも かち

日々に 精一杯 つとめます

 新しい領解文も内容的には、概ね元の4段の構成に基づいたものになっている。そもそも何故大谷門主が新しい領解文を提示したのか。彼岸や報恩講などの寺の法要に参加すると分かるが、大半が老人である。70歳近い私が圧倒的に若い部類に入るのである。これで浄土真宗の教えを若い世代に継承していけるのか甚だ疑問である。20年位前から寺の壮年会に時々顔を出して、酒に酔っては寺の布教活動の改革が必要ではないかと暴れまわっていた。寺としても危機感はあるのかもしれないが、これと言った対策が行われているようには思えない。

 一方、大谷門主は2018年に四カ条からなる念仏者の生き方を示した「私たちのちかい」をまとめられ、『この「私たちのちかい」は、特に若い人の宗教離れが盛んに言われております今日、中学生や高校生、大学生をはじめとして、これまで仏教や浄土真宗のみ教えにあまり親しみのなかった方々にも、さまざまな機会で唱和していただきたいと思っております。』と述べられている。また、今回の新しい領解文に先立ち、2021年にほぼ同じ内容の「浄土真宗のみ教え」を示され、『次の世代の方々にご法義がわかりやすく伝わるよう』と説明されている。

 反対派は、特に新しい領解文の“煩悩のさとりは 本来一つゆえ”の部分を攻撃しているようだが、私は不勉強ゆえその正否は分からない。しかし、大局的に見れば、教えは本質部分は維持しつつ、布教のための文書は時代に応じて変えていくべきであると思う。

 今年は親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年のおめでたい年なので反対派のお寺さんたちが早く事を納めて下さることを希望します。

(2023年6月28日 記)

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