豊洲市場土壌汚染問題 〜低レベルなマスコミ報道〜

 豊洲市場の土壌汚染について、盛土すべき部分がコンクリートの地下空間になっていた問題で連日マスコミが報道している。

 私は化学物質を扱う専門家の端くれであるが、そのマスコミ報道の化学物質についての報道の出鱈目さに今更ながらに驚いている。以下に例を挙げる。
@汚染物質の一つであるベンゼンを高校教師にドラフトの中で燃やさせて、黒い煙がいかにも体に悪そうであるというアナウンサーのコメント。
A地下空間に溜まっている水が高アルカリであることから、肉を同程度のアルカリである漂白剤に漬けて、肉が変質したという馬鹿げたテスト。
B地下空間に溜まっている水に環境基準以下の砒素が検出されたと騒ぐ政党。

 ベンゼンの毒性については、SDS(昔はMSDSと言っていた。Safty Data Sheet)にGHS分類で詳しく記述してある。ホームページで検索すればボロボロと出てくる。一番危ないのは発がん性で日本産業衛生学会の許容濃度は2015年版ではリスクレベルに応じて1ppmと0.1ppmが設定されている。ベンゼンを燃やして黒い煙が体に悪そうなどという概念でベンゼンの危険性を表現するマスコミの頭のレベルを疑う。

 これまでに読売や朝日の新聞記者と仕事で話をしたことがあるが、彼らは根本的に読者を馬鹿だと思っている。専門的事項は噛み砕いて素人にも分かってもらうにはどのように表現したらよいか、という視点は持っているが、自分自身が本気で専門的事項を調べて勉強しようという気が無いから馬鹿な専門家に捕まるとその表現方法が正しいのか、否かの判断が記者自身出来ないのである。

 このベンゼンは、ちょっと前までガソリンの中に%オーダーで入っていた。現在は1%以下に規制されているようだが、レギュラーではまだ1%前後含まれているようである。当然、ガソリンスタンドでの給油中にもやもやした揮発ガスの中には相当量のベンゼンが含まれており、日本では自由に放出しっぱなしが認められている。マスコミが本気で環境問題を考えるならこういう問題を日頃から本気で取り上げるべきである。

 そもそも土壌汚染対策法の規制基準は、汚染物質が地下水に溶出して、住民が汚染された井戸水を飲用して汚染物質を体内に摂取するリスクと汚染土壌を直接摂取して汚染物質を摂取するリスクしか考えていない。豊洲の問題にしても冷静に考えれば、近くで井戸水を使う人間はいないだろうし、盛り土であってもコンクリートであっても、適当に被覆しておけば、汚染土を人間が直接摂取する可能性はゼロであろう。従って、豊洲の環境問題で大騒ぎするようなことではない。

 地下空間に溜まった水が高アルカリということで騒いでいるが、コンクリートはそもそも強アルカリ性のセメントを原料にしており、建築したばかりのコンクリートに触れた水が強アルカリ性になるのは当然の話である。また土壌改良剤にセメント系材料を使っていれば、地下水も強アルカリになる可能性は十分ある。強アルカリを否定するということはコンクリートを否定することと同じなのである。

 Aの強アルカリ=漂白剤 の発想はどこから出てきたものだろう。強アルカリは単に水素イオン濃度が極端に低いだけの話である。一方、漂白剤には次亜塩素酸や過酸化物等の酸化剤が含まれている。この全く異なる二つの物質・概念を類似のものとして実験してみせるマスコミには、視聴者を見下して煽ってやろうと言う魂胆があらわに見て取れる。

 豊洲の土壌は、ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロム、カドミウムで汚染されていたという。コンクリート地下室の水から砒素が検出されたということは、残留汚染物質としての砒素が地下水に溶出して地下室に滲出してきた可能性もある。ただ、火山国の日本は多くが砒素で汚染されている。温泉水中の砒素濃度も高い。土壌汚染対策で自然由来の汚染の取り扱いが問題になっている所以である。仮に若干の汚染土が残っていたとして何の問題があるというのか。

 化学物質は本当に怖い。昨日まで危険と認識されず、何ら規制もされていなかった物質によってある日突然、がんになる。奇病になる。昔なら水銀であり、カドミウムであった。最近ならアスベストであり、1,2-ジクロロプロパンである。アスベストによる中皮腫患者は今後も増え続け、毎年1000人以上発症しているのではないかと思う。印刷会社の1,2-ジクロロプロパンによる胆管がんは悲惨である。国が何も規制を掛けていなかった物質によって発生した労災である。

 化学物質は本当に怖いからこそ、冷静に対処する必要がある。馬鹿で低レベルのマスコミが環境問題をかき混ぜてはいけない。マスコミには猛省を求める。

(2016年9月19日 記)

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